スティーヴ・ウォリナー
ドライヴ
BVCA-624
DRIVE = STEVE WARINER
1.ドライヴ
DRIVE (Steve Wariner/Bill LaBounty)
2、イフ・アイ・ディドント・ラヴ・ユー
IF I DIDN'T LOVE YOU (Jon Vezner/Jack White)
3.ワン・ビリーヴアー
ONE BELIEVER (Walt Aldridge/Susan Longacre)
4.イット・ウォント・ビー・オーヴァー・ユー
IT WON’T BE OVER YOU (Trey Bruce/Thom McHugh)
5、カム・バック
(YOU COULD ALWAYS) COME BACK (Marc Beeson/Robert Byrne )
6.ドライヴィン・アンド・クライン
DRIVIN' AND CRYIN' (Rick Giles/Spike Blake)
7.セイム・ミステイク・アゲイン
THE SAME MISTAKE AGAIN (Steve Wariner/Carl Jackson)
8.ミッシング・ユー
MISSING YOU (Rick Giles/Susan Longacre )
9.マリード・トゥ・ア・メモリー
MARRIED TO A MEMORY (Dave Loggins)
10.セイルズ
SAILS (John Hall/Johanna Hall)
ドライヴ
BVCA-624
DRIVE = STEVE WARINER
1.ドライヴ
DRIVE (Steve Wariner/Bill LaBounty)
2、イフ・アイ・ディドント・ラヴ・ユー
IF I DIDN'T LOVE YOU (Jon Vezner/Jack White)
3.ワン・ビリーヴアー
ONE BELIEVER (Walt Aldridge/Susan Longacre)
4.イット・ウォント・ビー・オーヴァー・ユー
IT WON’T BE OVER YOU (Trey Bruce/Thom McHugh)
5、カム・バック
(YOU COULD ALWAYS) COME BACK (Marc Beeson/Robert Byrne )
6.ドライヴィン・アンド・クライン
DRIVIN' AND CRYIN' (Rick Giles/Spike Blake)
7.セイム・ミステイク・アゲイン
THE SAME MISTAKE AGAIN (Steve Wariner/Carl Jackson)
8.ミッシング・ユー
MISSING YOU (Rick Giles/Susan Longacre )
9.マリード・トゥ・ア・メモリー
MARRIED TO A MEMORY (Dave Loggins)
10.セイルズ
SAILS (John Hall/Johanna Hall)
緑なき衆生にこそ届く言葉、というのがあるけれど、音楽においても同様に、縁なき人々にこそ届く音楽、というのがある筈である。
曲がりなりにも音楽を生業として看板掲げて世渡りする者にとって、そのような音楽に出会うことは至福である。
たとえばエルヴィス・プレスリー、ビートルズ、イーグルス、ケニー・ロジャース。彼等が世界中の、それこそ不特定多数のロックや・ポップス、カントリーといった音楽とは無繰の人々を音楽の欲求にかりたてた影響力を、ここであらためていうまでもないだろう。縁なき人々にこそ届く音楽というものは、彼等をひきあいにだすまでもなく確かにある。
現在のアメリカン・カントリー隆盛の要因となった60年代後半から70年代後半にかけてのカントリーの音楽潮流を支え、中枢として活躍、もうひとつのアメリカン・ポップスとしてのカントリーの旗頭として日本でも栄華を極めたグレン・キヤンベル、彼もまたGentle On My Mind、By The Time I Get To Phoenix (67年)、I Wanna Live、Whichita Lineman、Galveston(68 年)、Try A Little Kindness(69年)、Honey Come Back(70年)、 Rhinestone Cowboy、Country Boy(75 年)、Southern Night、Sunflower(77年)、といったカントリーヒポップスとのクロスオーヴア・ヒツトをもってカントリーとは緑なき人々の耳をカントリーに傾けさせた点で、まさに緑なき人々にこそ届く音楽を作り出した人物であった。
いま、カントリー・ポップスというときまってケニー・ロジャースやロニー・ミルサップの名前が挙げられるけれど、彼等の現在はコマーシヤル・カントリーのポップ化という遠大な計画をアル・デ・ロリーという敏腕プロデューサー兼アレンジャーとソング・ライターのジム・ウェッブと組んで成し遂げたグレン・キャンベルのカントリー・プロジェクトを飛躍、発展させて構築されたものという意見があるように、グレンの成功なしには考え難いといっても過言ではないだろう。
ニュー・カントリー・トラディション標榜したストレート・カントリー派の抬頭によって80年代から90年代にかけてのー時期、カントリーの潮流からはずれたカントリー・ポップだったが、かの「エイキー・ブレイキー・ハート」のモンスター・ヒットでアメリカン・ドリームを手にしたビリー・レイ・サイラスの登場によってカントリー・ポップの求心力が復活したいま、ビリー・レイと共にその中心的存在の歌手といわれているのがスティーブ・ウォリナーなのである。
スティーブのカントリーが、現代カントリー・ポップスを創造、白日のもとにしたグレン・キャンベルのカントリー・ポップ路線を継承して現在あることは彼のファンなら周知のことだけれど、スティーブはそれをバネにしてチェット・アトキンス仕込みの現代的音楽性とカントリ・ー・センチメントで、カントリーを基盤にした音楽の普遍的な楽しさ、親近感を追求、スタイリスティックなカントリー・ポップを作りあげてきている。
卓抜したカントリーとポップ・センス、ギター・テクニック等スティーブとグレンの共通点は多い。とりわけ現在のカントリーが内包するロツクやポップ等あらゆる要案を身にっけた若々しい歌声の爽快感、端々しいポップ感覚は耳をそぱだたせるものがある。たとえば二人の共演で話題になったThe Hand That Rocks The Cradle(87年)や You Will Not Lose(89年)でのー体感、判別しがたい相似生に驚かされ圧倒されたことが昨日のことのように思い出される。そして誰いうことなくいわれてきたグレン・キャンベルの後継者という声に思わず領いたことが思い出される。
唯一点二人の音楽性の相違点を指摘するならポップスヘの限りなき接近によるカントリーのポップスとのー体化を追求したグレンに対して、スティーブのそれは二っの音楽を同ーのものと考えることを基本にしたカントリー・ポップ・ソングの創造という点だろう。
ポップスを素材としながらカントリーのレベルから立ち上げるという出発点の違いがスティーブのカントリー.ポップの特長だ。こうしたアプローチは全盛時代のケニー.ロジャースにも口二一・ミルサップにも聞かれなかった音楽的特性だろう。
その意味でカントリーなどと¢)たてて好きでもないし、熱心に聞いたこともないというような、まさに緑なき人々の音楽ファンにこそスティーブのカントリー・ポップスはふさわしいと思う。
ところでスティーブ・ウォリナーといえぱアラン・ジャクソン、ブルックス&ダン、ダイアモンド・リオと共にパム・ティリス、ミッシェル・ライト、ロブ・クロスビー、リロイ・パーネル、ラダニ一・フォスター、プラザー.フェルプス(元ケンタッキー.ヘンドハンターズのフェルプス兄弟)といった人気カントリー・アーティストを擁して躍進著しいアリスタ/ナッシュビルの牽引者。これまでRCA(78年~84年)、MCA(84年~91年)、アリスタ(91年~)で放ったヒツト曲43曲。うちNo1カントリー・ヒット9曲というまごうかたなきスーパー・スターである。
このお手持ちのアルバム「ドライヴ」は、そのスティーブのアリスタにおける「アイ・アム・レディーJに続く、今年93年夏発売のセカンド・アルバムである。
カントリーの普遍的な楽しさ、親しみやすさの原点に立ったカントリー・ポップスというコンセプトは変わらないけれど、タイトル・ソングをスティーブの友人であり、ポール・デイヴィス、デイヴ・ロギンズ、ジム・フォトグロと共に彼の音楽的影響者でもあるAOR界の大御所としてボビー・コールドウェルと並び称せられ日本でも人気の高いシンガー・ソング・ライターのビル・ラバウンテイと共作、また共演者としても名を運ねていることからも察せられるようにAOR的カントリー・ポップの色合い深めたアルバムになっているのが前作と似て非なるところだ。
カントリー・ソングと、多分にレトロ志向のソウル的ポップ・バラードのミックスカップになるスタイリスティックな明るいカントリー・ポップで橋成された前作の印象とは違ったナッシュビル産カントリーAOR風に戸感うファンもいることと思われるが、こうしたスタイルはランディ・グッドラムやヴァン・スティヴンソンといったチェット・アトキンス人脈のセッション・・ミュージシャンやシンガー・ソングライター違にとっては日常普通に手がけられているカントリー・ポップ/ポップ・カントリーである。彼等同様チェット・アトキンス人脈のー人であるスティーヴの今作での志向は前作に比べてポップ色が強いう程度の違いこそあれ、演っていることはこれまでとなんら変わるものではない。AOR/ポップスを素材としながらカントリーのレベルから立ち上げるアプローチに変化はない。
バックアップ・ミュージシャンの顔ぶれと楽器編成を見ても前作同様のエディ・ベイヤーズ(ドラムス)、マイケル・ローズ(ベース)、ジョン・ジャヴィス(キーボード)、マック・マカナリイ(アコーステイツク・ギター)、ポール・フランクリン(ペダル・ステイール)、スチュアート・ダンカン(フィドル)、プレント・メイソン(エレキ・ギター)を中心に、コーラスにはマック・マカナリイとハリー・スティンソン、ビリー・トーマス、カール・ジャクソン、ジュディ・ロッドマンといったナッシュビルのカントリー・ピッカーと歌手違ぱかリだ。情感豊かで繊細なスティーヴのカントリー・エモーション熟知した仲問達ぱかリである。
それなのに聞こえてくる歌と演奏の摩訶不思議さ。これこそがナッシュビル・カントリーの歌手とミュージシャンの真骨膜。懐の深さとしたたかなミュージシャン・シップのあらわれだ。カントリーやカントリー・ポップに対して一種定式化された視点を持ってL\るファンには理解しえないカントリー世界であるかもしれない。
しかし、スティーヴのファンやカントリーに縁なき人々の耳にはAORやポップの解釈の手統きを無用にした素朴な直接耳にとぴこんでくるカントリー・エモーション横溢した歌と音の快感に身を委ねることができる筈だ。
とにかく今作も、ワン&オンリーの道を進んでいるスティーヴではある。ケニー・ロジャースの新作『lF ONLY MY HEART HAD A VOICE』(邦題「心の声」)のように歌がうまいだけではないし、ピリー・レイ・サイラスのように現在のカントリ一・クラブ・ダンス・シーンに映えるというわけではない。またヴィンス・ギルのようにT・P・O・をわきまえ演じ分けているわけではなく、むしろそうした流行に敢えて距離を置こうとしている節がうかがえる。だけど最新リズム・トラックによるAOR的カントリー・ポップスとの相性はきわめて良い。
表題曲の「ドライヴ」(1)にしても、前作の特長だったカントリーAORの「ミッシング・ユー」(8)、スバリAORでポップした「マリード・トゥア・メモリー」(3)にしてもスティーヴらしい健康的な色気が漂っている。70年代後半のグレン・キャンベルのカントリー・ポップの流れを受け継いだ緊張感と旺盛なミュージック・マインドが脈打っている。
曲目構成はスティーヴの現代的音楽性全開したポップン・ロック的カントリー・アレンジが爽快な「ドライヴ」、「イフ・アイ・ディドント・ラヴ・ユー」(2/アルパムの先行シングル。7月3日付「ビルボード」誌カントリー・シングルに61位でチャート・デビュー。8月14日現在28位赤丸上昇中)、「イット・ウォント・ビー,オーヴァー・ユー」(4)、カントリー・ポップ・バラードの「ワン・ビリーヴァー」(3)「カム・バック」(5)「ドライヴァン・アンド・クライン」(6)、前作の「ティップス・オン・マイ・フィンガーズ」を想起させる共作者カール・ジャクソンとのデュエットも魅力的なカントリー,バラードの「セイム・ミステイク・アゲイン」(7)、AORの「ミッシング・ユー」(8)、デイヴ・ロギンス作の「マリード・トゥ・ア・メモリー」(9)、ジョンとジョアンナ・ホールの作品をチェット・アトキンス的音楽性駆使したイージー・リスニング・ポップ・パラードで歌いあげた「セイルズ」(10)という全10曲だが、一見変哲のないポップ色強いカントリー・ポップ・アルパムに聞こえて実は、なんとも起伏に富んだ、一流ギタリストでもあるスティーヴらしい手の込んだアルパムになっている。
前作のような派手さこそなL\ものの丹念なアルバム作りはこれまでのアルバム13枚の中でも1、2を争う質の高さではないだろうか。とリわけラスト・ソング「セイルズ」でのハイ・クオリティなポップ・カントリー世界は圧巻。スティーヴ・ウォリナーというシンガー、ミュージシャンの魅力と音楽性をこれほど直接、リスナーになげかけたことはなかった。累朴で親密感溢れた心優しき調ぺは感動的である。カントリーに根ざした爽快で、ときに憂雅で、冴えあるスティーヴの精神世界を垣問見たような気分である。
なお前記した、ポップ・ファンには気がかりなタイトル・ソンダ「ドライヴ」をスティーヴと共作、共演したビル・ラバウンティはスティーヴとはMCA時代からの仲でNo1カントリー・ヒットを記録したThe Weekend Lynda(87年)をはじめThe Domino Theory(90年)、前作でもEverything's Gonna Be Alright(91年)をスティーヴと共作するといったように、スティーヴのアルバムには欠かせない、いまやナッシュビルのソング・ライターである。
ビル・ラバウンティの存在ひとつをとってもスティーヴのカントリー・アルバムはカントリーとは縁なき人々にこそ届く音楽としての魅カ溢れる条件備えたものであることがおわかリいただけると思う。
最後になってしまったが、このアルパムは8月14日付「ビルボード」誌カントリー・アルバム・チャートに52位で初登場した。
また、現時点でのスティーヴ・ウォリナー・バンドのメンバーはスティーヴ(ギター、リード・ヴオーカル)を筆頭に弟のテリー(ギター、ハーモニ一・ヴォーカル)、カイル・タリス(ベース)、ロン・ガナウェイ(ドラムス)、アリン・ラヴ(ペダル・スティール、ドプロ、ギター)、ジェフ・グァン・ゼイ(マンドリン、フィドル、ギター)、ジョイ・シュミット(キーボード、ヴォーカル)。熊本の「カントリー・ゴールド」では多分このメンバーで歌い演じられるのだろう。風光明媚な会場アスペクタを取リ囲む阿蘇の山々に響き渡るスティーヴのステージがいまから待たれてならない。それまで前作「アイ・アム・レデイー」(BVCA-617)、そしてこの「ドライヴ」でスティーヴ・ウォリナー・カントリーの素曜らしさを堪能しておこう。
(93年8月/島田耕)
曲がりなりにも音楽を生業として看板掲げて世渡りする者にとって、そのような音楽に出会うことは至福である。
たとえばエルヴィス・プレスリー、ビートルズ、イーグルス、ケニー・ロジャース。彼等が世界中の、それこそ不特定多数のロックや・ポップス、カントリーといった音楽とは無繰の人々を音楽の欲求にかりたてた影響力を、ここであらためていうまでもないだろう。縁なき人々にこそ届く音楽というものは、彼等をひきあいにだすまでもなく確かにある。
現在のアメリカン・カントリー隆盛の要因となった60年代後半から70年代後半にかけてのカントリーの音楽潮流を支え、中枢として活躍、もうひとつのアメリカン・ポップスとしてのカントリーの旗頭として日本でも栄華を極めたグレン・キヤンベル、彼もまたGentle On My Mind、By The Time I Get To Phoenix (67年)、I Wanna Live、Whichita Lineman、Galveston(68 年)、Try A Little Kindness(69年)、Honey Come Back(70年)、 Rhinestone Cowboy、Country Boy(75 年)、Southern Night、Sunflower(77年)、といったカントリーヒポップスとのクロスオーヴア・ヒツトをもってカントリーとは緑なき人々の耳をカントリーに傾けさせた点で、まさに緑なき人々にこそ届く音楽を作り出した人物であった。
いま、カントリー・ポップスというときまってケニー・ロジャースやロニー・ミルサップの名前が挙げられるけれど、彼等の現在はコマーシヤル・カントリーのポップ化という遠大な計画をアル・デ・ロリーという敏腕プロデューサー兼アレンジャーとソング・ライターのジム・ウェッブと組んで成し遂げたグレン・キャンベルのカントリー・プロジェクトを飛躍、発展させて構築されたものという意見があるように、グレンの成功なしには考え難いといっても過言ではないだろう。
ニュー・カントリー・トラディション標榜したストレート・カントリー派の抬頭によって80年代から90年代にかけてのー時期、カントリーの潮流からはずれたカントリー・ポップだったが、かの「エイキー・ブレイキー・ハート」のモンスター・ヒットでアメリカン・ドリームを手にしたビリー・レイ・サイラスの登場によってカントリー・ポップの求心力が復活したいま、ビリー・レイと共にその中心的存在の歌手といわれているのがスティーブ・ウォリナーなのである。
スティーブのカントリーが、現代カントリー・ポップスを創造、白日のもとにしたグレン・キャンベルのカントリー・ポップ路線を継承して現在あることは彼のファンなら周知のことだけれど、スティーブはそれをバネにしてチェット・アトキンス仕込みの現代的音楽性とカントリ・ー・センチメントで、カントリーを基盤にした音楽の普遍的な楽しさ、親近感を追求、スタイリスティックなカントリー・ポップを作りあげてきている。
卓抜したカントリーとポップ・センス、ギター・テクニック等スティーブとグレンの共通点は多い。とりわけ現在のカントリーが内包するロツクやポップ等あらゆる要案を身にっけた若々しい歌声の爽快感、端々しいポップ感覚は耳をそぱだたせるものがある。たとえば二人の共演で話題になったThe Hand That Rocks The Cradle(87年)や You Will Not Lose(89年)でのー体感、判別しがたい相似生に驚かされ圧倒されたことが昨日のことのように思い出される。そして誰いうことなくいわれてきたグレン・キャンベルの後継者という声に思わず領いたことが思い出される。
唯一点二人の音楽性の相違点を指摘するならポップスヘの限りなき接近によるカントリーのポップスとのー体化を追求したグレンに対して、スティーブのそれは二っの音楽を同ーのものと考えることを基本にしたカントリー・ポップ・ソングの創造という点だろう。
ポップスを素材としながらカントリーのレベルから立ち上げるという出発点の違いがスティーブのカントリー.ポップの特長だ。こうしたアプローチは全盛時代のケニー.ロジャースにも口二一・ミルサップにも聞かれなかった音楽的特性だろう。
その意味でカントリーなどと¢)たてて好きでもないし、熱心に聞いたこともないというような、まさに緑なき人々の音楽ファンにこそスティーブのカントリー・ポップスはふさわしいと思う。
ところでスティーブ・ウォリナーといえぱアラン・ジャクソン、ブルックス&ダン、ダイアモンド・リオと共にパム・ティリス、ミッシェル・ライト、ロブ・クロスビー、リロイ・パーネル、ラダニ一・フォスター、プラザー.フェルプス(元ケンタッキー.ヘンドハンターズのフェルプス兄弟)といった人気カントリー・アーティストを擁して躍進著しいアリスタ/ナッシュビルの牽引者。これまでRCA(78年~84年)、MCA(84年~91年)、アリスタ(91年~)で放ったヒツト曲43曲。うちNo1カントリー・ヒット9曲というまごうかたなきスーパー・スターである。
このお手持ちのアルバム「ドライヴ」は、そのスティーブのアリスタにおける「アイ・アム・レディーJに続く、今年93年夏発売のセカンド・アルバムである。
カントリーの普遍的な楽しさ、親しみやすさの原点に立ったカントリー・ポップスというコンセプトは変わらないけれど、タイトル・ソングをスティーブの友人であり、ポール・デイヴィス、デイヴ・ロギンズ、ジム・フォトグロと共に彼の音楽的影響者でもあるAOR界の大御所としてボビー・コールドウェルと並び称せられ日本でも人気の高いシンガー・ソング・ライターのビル・ラバウンテイと共作、また共演者としても名を運ねていることからも察せられるようにAOR的カントリー・ポップの色合い深めたアルバムになっているのが前作と似て非なるところだ。
カントリー・ソングと、多分にレトロ志向のソウル的ポップ・バラードのミックスカップになるスタイリスティックな明るいカントリー・ポップで橋成された前作の印象とは違ったナッシュビル産カントリーAOR風に戸感うファンもいることと思われるが、こうしたスタイルはランディ・グッドラムやヴァン・スティヴンソンといったチェット・アトキンス人脈のセッション・・ミュージシャンやシンガー・ソングライター違にとっては日常普通に手がけられているカントリー・ポップ/ポップ・カントリーである。彼等同様チェット・アトキンス人脈のー人であるスティーヴの今作での志向は前作に比べてポップ色が強いう程度の違いこそあれ、演っていることはこれまでとなんら変わるものではない。AOR/ポップスを素材としながらカントリーのレベルから立ち上げるアプローチに変化はない。
バックアップ・ミュージシャンの顔ぶれと楽器編成を見ても前作同様のエディ・ベイヤーズ(ドラムス)、マイケル・ローズ(ベース)、ジョン・ジャヴィス(キーボード)、マック・マカナリイ(アコーステイツク・ギター)、ポール・フランクリン(ペダル・ステイール)、スチュアート・ダンカン(フィドル)、プレント・メイソン(エレキ・ギター)を中心に、コーラスにはマック・マカナリイとハリー・スティンソン、ビリー・トーマス、カール・ジャクソン、ジュディ・ロッドマンといったナッシュビルのカントリー・ピッカーと歌手違ぱかリだ。情感豊かで繊細なスティーヴのカントリー・エモーション熟知した仲問達ぱかリである。
それなのに聞こえてくる歌と演奏の摩訶不思議さ。これこそがナッシュビル・カントリーの歌手とミュージシャンの真骨膜。懐の深さとしたたかなミュージシャン・シップのあらわれだ。カントリーやカントリー・ポップに対して一種定式化された視点を持ってL\るファンには理解しえないカントリー世界であるかもしれない。
しかし、スティーヴのファンやカントリーに縁なき人々の耳にはAORやポップの解釈の手統きを無用にした素朴な直接耳にとぴこんでくるカントリー・エモーション横溢した歌と音の快感に身を委ねることができる筈だ。
とにかく今作も、ワン&オンリーの道を進んでいるスティーヴではある。ケニー・ロジャースの新作『lF ONLY MY HEART HAD A VOICE』(邦題「心の声」)のように歌がうまいだけではないし、ピリー・レイ・サイラスのように現在のカントリ一・クラブ・ダンス・シーンに映えるというわけではない。またヴィンス・ギルのようにT・P・O・をわきまえ演じ分けているわけではなく、むしろそうした流行に敢えて距離を置こうとしている節がうかがえる。だけど最新リズム・トラックによるAOR的カントリー・ポップスとの相性はきわめて良い。
表題曲の「ドライヴ」(1)にしても、前作の特長だったカントリーAORの「ミッシング・ユー」(8)、スバリAORでポップした「マリード・トゥア・メモリー」(3)にしてもスティーヴらしい健康的な色気が漂っている。70年代後半のグレン・キャンベルのカントリー・ポップの流れを受け継いだ緊張感と旺盛なミュージック・マインドが脈打っている。
曲目構成はスティーヴの現代的音楽性全開したポップン・ロック的カントリー・アレンジが爽快な「ドライヴ」、「イフ・アイ・ディドント・ラヴ・ユー」(2/アルパムの先行シングル。7月3日付「ビルボード」誌カントリー・シングルに61位でチャート・デビュー。8月14日現在28位赤丸上昇中)、「イット・ウォント・ビー,オーヴァー・ユー」(4)、カントリー・ポップ・バラードの「ワン・ビリーヴァー」(3)「カム・バック」(5)「ドライヴァン・アンド・クライン」(6)、前作の「ティップス・オン・マイ・フィンガーズ」を想起させる共作者カール・ジャクソンとのデュエットも魅力的なカントリー,バラードの「セイム・ミステイク・アゲイン」(7)、AORの「ミッシング・ユー」(8)、デイヴ・ロギンス作の「マリード・トゥ・ア・メモリー」(9)、ジョンとジョアンナ・ホールの作品をチェット・アトキンス的音楽性駆使したイージー・リスニング・ポップ・パラードで歌いあげた「セイルズ」(10)という全10曲だが、一見変哲のないポップ色強いカントリー・ポップ・アルパムに聞こえて実は、なんとも起伏に富んだ、一流ギタリストでもあるスティーヴらしい手の込んだアルパムになっている。
前作のような派手さこそなL\ものの丹念なアルバム作りはこれまでのアルバム13枚の中でも1、2を争う質の高さではないだろうか。とリわけラスト・ソング「セイルズ」でのハイ・クオリティなポップ・カントリー世界は圧巻。スティーヴ・ウォリナーというシンガー、ミュージシャンの魅力と音楽性をこれほど直接、リスナーになげかけたことはなかった。累朴で親密感溢れた心優しき調ぺは感動的である。カントリーに根ざした爽快で、ときに憂雅で、冴えあるスティーヴの精神世界を垣問見たような気分である。
なお前記した、ポップ・ファンには気がかりなタイトル・ソンダ「ドライヴ」をスティーヴと共作、共演したビル・ラバウンティはスティーヴとはMCA時代からの仲でNo1カントリー・ヒットを記録したThe Weekend Lynda(87年)をはじめThe Domino Theory(90年)、前作でもEverything's Gonna Be Alright(91年)をスティーヴと共作するといったように、スティーヴのアルバムには欠かせない、いまやナッシュビルのソング・ライターである。
ビル・ラバウンティの存在ひとつをとってもスティーヴのカントリー・アルバムはカントリーとは縁なき人々にこそ届く音楽としての魅カ溢れる条件備えたものであることがおわかリいただけると思う。
最後になってしまったが、このアルパムは8月14日付「ビルボード」誌カントリー・アルバム・チャートに52位で初登場した。
また、現時点でのスティーヴ・ウォリナー・バンドのメンバーはスティーヴ(ギター、リード・ヴオーカル)を筆頭に弟のテリー(ギター、ハーモニ一・ヴォーカル)、カイル・タリス(ベース)、ロン・ガナウェイ(ドラムス)、アリン・ラヴ(ペダル・スティール、ドプロ、ギター)、ジェフ・グァン・ゼイ(マンドリン、フィドル、ギター)、ジョイ・シュミット(キーボード、ヴォーカル)。熊本の「カントリー・ゴールド」では多分このメンバーで歌い演じられるのだろう。風光明媚な会場アスペクタを取リ囲む阿蘇の山々に響き渡るスティーヴのステージがいまから待たれてならない。それまで前作「アイ・アム・レデイー」(BVCA-617)、そしてこの「ドライヴ」でスティーヴ・ウォリナー・カントリーの素曜らしさを堪能しておこう。
(93年8月/島田耕)
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