ーー今時のカントリーはーー
なんて言っていられない今時のカントリー
AMERICAN MUSIC JOURNEY
アメリカ音楽の旅
column vol.178
文 = 島田 耕
『CMAミュージック・フェスティバル2006』でティーンエイジ・パワー を爆発させたポップ・カントリーのカリスマ、ミランダ・ロンバート (Photo by Shimada Tagayasu/ テネシー州ナッシュビル、アデルフィア・スタジアム−2006年6月) |
「今時の若い者はーー」とは、年配者が若年世代をひとくくりにして、その不品行を嘆いたりする時の常套句だ。
いまカントリーはカントリーと呼ぶべきか、ロックと呼ぶべきか、はたまたポップスと呼ぶべきか否か、アメリカのファンでさえ戸惑っているように、近年のポップ・カントリーとかカントリー・ポップと呼ばれるカントリーは、もはや伝統音楽としてのカントリーの呪縛から解放された新世代のミュージシャンたちによってあたかも、もうひとつのポップス、ロックの様相を呈したジャンルを超えた演奏スタイルと言葉、メッセージを持ったまったく新しい音楽としてアメリカン・ミュージックの大道を闊歩している。時代と共に、カントリーのツールも変わってきたということだろう。硬派なカントリー・ファン曰く「今時の若いもんのカントリーはーー」。
『CMAミュージック・フェスティバル2006』のハイライト。 ポップ・カントリーのいまを代表するビッグ・スリーのアコースティック・セッション。 キース・アーバン(左)、ブルックス&ダンのキックス・ブルックス(中)とロニー・ダン(右) (Photo by Shimada Tagayasu/ テネシー州ナッシュビル、アデルフィア・スタジアム−2006年6月) |
かつて正統派カントリーのアラン・ジャクソンがいち早くインターネットの電子メールをツールにした『www.memory』をヒットさせたとき、「カントリー・ソングも電子メールの時代かよ」とファンから揶揄されたことを憶えているだろうか。あれから13年、いまやカントリーとは名ばかりのラップやR&Bやロックやポップスもどきは日常のこと、手段を問わないカントリーのいまにはジャンルを超えてすべての音楽が混在している。
だが、いま息子娘世代をその言葉で嘆く親世代も、若き日のロカビリーやナッシュビル・サウンド・スタイルのモダン・カントリー時代には、祖父母世代から同じ文句を聞かされたはずだ。そしてその祖父母世代は曾祖父母世代からl。時は流れても人が昔から同じことを言い続けているということは確かにあるけれど、いまここにいたってあらためて一体ポップ・カントリーってなんだろうと思う。
「ポップ・カントリー」とはカントリーのポップスやロックの摂取、融合、その結果としてのカントリーのポップ化である。古くは1930年代、40年代にまで遡ることができるが、カントリーとポップスが本格的に結びついた蜜月の時代の代表曲が「テネシー・ワルツ」だった。そしてカントリーを根底から覆したロックンロールへの対抗音楽としてイージー・リスニング・ポップスと結びついて生まれたのが「ナッシュビル・サウンド」と名付けられたモダン・カントリーだった。首謀者はチェット・アトキンスだ。いまではノスタルジック・カントリーとして愛されているそれも、当初は伝統派からの批判が相次いだ。「今時のカントリーはーー」と。
ナッシュビル・サウンドによるカントリーのポップ化は賛否あったものの、60年代後半にかけて進取の気性に富んだ優れたシンガー、ミュージシャンであればあるほど、そういったことに心血を注いできたことが思い出される。エディー・アーノルド、ジム・リーヴス、パッツイ・クライン、ザ・ブラウンズ、スキーター・デイビス、レイ・プライス、グレン・キャンベル。70年代に入ってからのケニー・ロジャース、ドリー・パートン、リン・アンダーソン、ロニー・ミルサップ、クリスタル・ゲイルがそうだ。
カントリーの伝統派からはポップ・カントリーの曖昧模糊としたスタイルの多様性にカントリー音楽のアイデンティティーを感じないという声が相も変わらず聞かれるけれど、ポップ・カントリー40余年という歴史の中には伝統的なホンキートンク・カントリーそのものも、例えば硬派を代表するジョージ・ストレイトやリッキー・スキャッグスを引き合いに出すまでもなくポップスやロックによって鍛えられ、育まれてきたという背景があることを認識すべきだ。ポップなカントリーというのは複雑多様な要素を含んでいるだけに影響力も絶大であり、それゆえにエリック・クラプトンもシェリル・クロウもニール・ヤングもカントリーに接近して、そこから彼らの新しい音楽が始まっている。カントリー音楽産業の将来は異種音楽とのコラボレーションなくしてはあり得ないという現状を認めるべきだ。
考えてみれば、カントリー音楽の歴史的性格は純粋性にあると言われてきたが過去、現在を通して現在のカントリーのように様々の異質な音楽を取り入れて自らを強靭にした時代はない。純粋性はひとつの価値であるとしても、それはしばしばひ弱さの同義語にもなりかねない。真に強力な創造が行なわれるためには異質な要素との融合が絶対不可欠だ。近年のカントリーの隆盛は異質な音楽との融合によるポップ・カントリー創造のたまものにほかならない。
カントリーは男の音楽と言われた時代があった。いまでもブラッド・ペイズリー、キース・アーバン、ダークス・ベントリー、ラスカル・フラッツといった男カントリーの人気あってのカントリーであることは確かだ。しかしここ数年のカントリーのマス・メディアの反応は違う。シャナイア・トゥエイン、マルティナ・マクブライド、フェイス・ヒルのようなハリウッド女優さながらのアダルトな美貌の歌姫たちに続いて、テイラー・スイフト、ミランダ・ロンバート、キャリー・アンダーウッドに代表される20代前後のカントリー・アイドル、また女性歌手をフューチャーしたシュガーランド、リトル・ビッグ・タウン、レディ・アンテベラムのようなガールズ・カントリーへファン、マスコミの耳目は集まっている。ジャンルを横断した音楽性、迷いなき確信に満ちたパフォーマンス、突出したメディアへの進出に加えること、絶えることのないカントリー・ビューティーの登場に沸いている。
なかでもブームの目はタレント・コンテスト『アメリカン・アイドル』からスーパー・デビューしたキャリー・アンダーウッド(Carrie Marie Underwood)と、『ナッシュビル・スター』出身のミランダ・ロンバート(Miranda Lambert)、そしていまや日本でも話題のテイラー・スイフト(Taylor Swift)だ。彼女たち3人の可愛い小悪魔的なパフォーマンスに見え隠れするシンガー・ソング・ライターとしての資質、同世代の女の子たちから共感を得られるだろう同じ目配り、気配りはこれまでのカントリー・アイドルたちからは感じられなかったものだ。3人のカントリー・スタイルは対照的だが、ジャンルを超え、自ら選択した言葉と音によって表現する現在進行形のカントリーの典型を聞くことが出来るという点でいま、共に一頭群を抜いた存在だ。「今時のカントリーはl」で、片付けられないドグマが3人には渦巻いている。
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