あの当時、ぼくのジュニア観はすべてがお膳立てされた演出どおりに動かされている母オードリーの操り人形としか聞こえず、見事なデビュー曲やアルバム『SINGS THE SONG OF HANK WILLIAMS』(MGM・1964年)でさえ、まやかし物じゃないかと疑い、好きではなかった。
「毎晩、親父のプログラム通りにうたうことの虚しさに気づいたとき、自分の人生は自分でコントロールしなくてはと。自分の人生を親父への忠誠を尽くすことで費やすことは虚しい」。1960年代のデビューから10年間母オードリーの管理下で行われた「ハンク・ウイリアムズ・ショー」さながらの、ウルトラがつくような時代錯誤のカントリー・ショーから解放されたのは1975年11月、オードリーの死によってであった。母の死を機にナッシュビルを離れ、父の故郷アラバマへ居を移し、折からのサザン・ロック・ブームへ身を投じ、レブラン&カー、チャーリー・ダニエルズ、マーシャル・タッカー・バンドの連中たちと『HANK WILLIAMS JR. & FRIENDS』(MGM・1975年)を発表。ナッシュビル一辺倒の音楽志向から一歩も二歩も身を引き、ロックにも焦点を合わせた新しいメディアのなかで生きていこうという覚悟のアルバムには魅せられてしまった。このアルバムによって、それまでの“Send Me Some Lovin'”“Rainy Night In Georgia”といったR&B好き発言も信憑性を帯びて、1970年代アウトロー・カントリー時代のフェヴァリッツ・シンガーの一人になり、ジュニアを追う日々がはじまった。
以後、“Family Tradition”“Whiskey Bent And Hell Bound”(1979年)のヒットを契機にジュニアのカントリー時代がはじまる。“Texas Women”“Dixie On My Mind”“All My Rowdy Friends”( 1 9 8 1年) “Honky Tonkin'”( 1 9 8 2 年)“I'm For Love”(1985 年)“Ain't Misbehavin’”“Mind Your Own Business”(1986年)とNo.1ヒットを連発、誰もがカントリー音楽協会主催のビッグ・イヴェント「CMAアワード」のグランプリ受賞と確信したにも拘らず賞とは無縁に生きてきた。そしてそれを誇りにしたジュニアだった。彼が自身のバマ・バンドとUSOツアーで横田基地と横須賀の米軍基地でコンサートを行ったとき、ジュニアの後見人のマール・キルゴアがジュニアの紹介で叫んだものだ。「No.1カントリー・ヒット7曲、あらゆるカントリー大賞と無縁に生きてきた無冠の帝王・ジュニア! ジュニア! ハンク・ウイリアムズ・ジュニア!」。耳をつんざく歓声と缶ビール飛び交う光景が昨日のことのように思い出されるが、それに先立つインタビューでバンド・メンバーとジム・ビームのバーボンを煽りながら、「いまだに親父の歌を期待しているファンがいるけれど、親父を含めたノスタルジック・カントリー・ショーはやらないよ。ブルースはジミー・ロジャーズとライトニン・ホプキンスをベースに自分流のブルース、ブギーさ。親父のブルースじゃないんだよ。カントリーもディープ・サウスさ。ソウルなんだよ。わかるだろう」。ナッシュビル音楽産業に対する皮肉をまじえた音楽観の端々に管理されることへの拒絶反応が強く表れ、自分流に固執する。これじゃCMAアワードは無理だろうと思わせたジュニアだった。
しかし、“Born To Boogie”(1987年)が1位になったとき状況が一変した。さすがのCMAもジュニアを無視することは出来なかった。バーバラ・マンドレルの紹介でうたった記念の1曲“This Ain't Dallas”でのジュニアの満面の笑みをたたえたパフォーマンスをどう表現したらいいのだろう。デビューして23年、父母の重圧を背に受け、ナッシュビル音楽産業に反目、アラバマを拠点にオリジナル・カントリーを追求、艱難辛苦の末にたどり着いたまさに栄光の瞬間だったのだろう。自ら信じる道を歩いてきた男の自信に溢れた姿がみごとに映し出された感動のステージだったことが思い出される。ナッシュビルに反旗を翻して栄光を勝ち得た初めてのカントリー・シンガーとしてその名はCMAアワードの歴史に刻まれることになった。
そして翌1988年、再びグランプリに輝きまごうかたなき全盛時代を謳歌、1989年にはCG(コンピューター・グラフィック)による父ハンクとの共演を“There's A Tear In My Beer”で果たし、グラミーとCMAのヴォーカル・イヴェント賞受賞。この曲こそはジュニアがようやく父ハンク・シニアの呪縛から解き放たれ、親父を凌ぐアウトロー・カントリーになったことを白日のもとにしてくれた証の曲だった。
コメント
コメントを投稿